小説新人賞応募の記録

小説新人賞応募の記録~第3回「だまされていなかった!」

再び11年の月日が流れた。

時は2009年。僕はこの年に36歳になろうとしていた。

結局、何も書かないままに時間だけが過ぎていき、気づけば30代も後半。数年前に結婚もしたので、家庭と仕事がメインの生活になっていた。会社は途中編集プロダクションを挟んで、9年前にインターネット系の企業に転職していた。

そして2009年も明けて間もない、冬のある日のこと。

自宅でネットをしていて、偶然ある小説新人賞のページを発見した。ちょうど最終候補者が発表されていた。

僕はその候補者の一人の名を見て、目を見張った。

それは、僕に「小説家を目指してみては?」と勧めてくれた、あの時の彼の名だった。

そうか……最終候補に……。

僕の中で何かが光った。彼はいい加減な気持ちで勧めたのではなく、本当にそう思っていたのかもしれない。現に大きな賞の最終候補にまで残っている。そんな彼の言葉は本物だったのではないか。

「だまされていなかったのでは!」

と気づくまでに10年以上もかかったが、不思議とまたやる気が出てきて、僕はWordを立ち上げた(この頃にはWindowsを使うようになっていた)。もちろん心の中で、彼に疑念を持ったことは謝った。

読んでいてハラハラするような物語だったら、書いていても楽しいかもしれないと思い、ジャンルはミステリー&サスペンスに定めた。

しかも10年前とは違い、漠然としたストーリーを思いつくことができた。相変わらず小説はほとんど読んでいなかったけれど、多少は人生の経験値が溜まっていたのか、昔より苦労はしなかった。

小説の書き方の本や指南書など、そうしたものは見なかった。現時点の実力を見定めるため、とりあえず自力で書き上げてみようと思ったのだ。時間を見つけてはコツコツと書き続け、約半年かけてなんとか長編小説を書き上げた。

おおまかなストーリーの概要はこうだ。

ある日、政府と主要マスコミに脅迫文が届く。内容は「総理の辞任を要求する。実行されなければ、地下鉄を火の海にする」というものだ。

編集プロダクションで副編集長を務める主人公は、「なぜ総理の辞任を求めるのか」という謎の真相を記事にしようとして、事件にかかわっていく。

その調査の過程で、主人公がかつてスクープした贈収賄事件が関係していることを知る。自身が生み出した過去の因縁が今回の事件に繋がっていることに衝撃を受け、この事件は自分が解決しなければと決意を新たにする。

一方、犯人グループは……とあるメーカーに勤める課長職の男、現役政治家の男、そしてネットには強いが人格破綻者の男、という三人組。彼らは中学の同級生で、皆が総理に復讐する充分な動機を持っていた。

私立探偵、刑事も入り乱れ、事態は混沌としていく。

犯人グループの復讐は完遂されるのか? それとも主人公の活躍により、事件は解決されるのだろうか?

という、どちらかと言えばサスペンス寄りなストーリー。

タイトルは『地下の炎』。

「ちかのほのお? ダサくない?」と思ったあなた。違うんです。

『地下の炎』と書いて「じげのほむら」と読むのです! なんとなく中二臭が漂うものの、ちゃんと意味のあるタイトルなので、自分的には気に入っていた。

そして今思えば適当すぎたと思うのだが、この時になって初めて「さて、どんな賞があるのかな~」と考え始めたくらい、賞の情報には疎かった。

もう7月に入っている。ミステリーの賞、かつ締め切りの時期は7月~8月という条件で探してみた。

すると、あった。

「第30回 横溝正史ミステリ大賞」※当時はまだ7月31日が締め切りだった

そういえば横溝正史の作品を昔読んでいたこともあり、「これは良さそうだ」と即決した。二回ほど推敲し、印刷も終えて、応募した。

応募したら「あとは結果待ちまで何もすることはないな」という、これも今思えば「何してんだ。すぐ次の作品に取りかかれよ」と言いたくなるほど、呑気に構えていた。

ところが、応募した後にあらためて募集要項を見て凍りついた。添付を必須とされている、梗概(こうがい。あらすじのこと)の枚数を読み違えて、大幅に超過してしまっていたのだ。それも半端ない超過。たぶん5倍くらい。

確かに当時の要項に書かれていた内容は、読み違えてもおかしくない説明がされていた(自分のせいかは知らないが、翌年からわかりやすい内容に変わった)。

にしても、そんなに超過しているのだから、梗概を書いている時に気づけよという話ではある。

「これはまずい」

と思ったけれど、もう応募してしまったし、どうすることもできない。

「落ちたのでは……」

急速に心に影が落ちてきて、結果が出るまでただ悶々と過ごした。気分を紛らわせるために次作を考えよう、という気すら起きなかった(もともとその気はなかったが)。

そして年末頃に発売された『野性時代』。その誌上に一次選考の結果が載るということで、書店に立ち寄って結果をチェックしてみた。

梗概問題があったものの、ページをめくる時には妙に緊張が走ったことは記憶している。

震える指で、一次選考通過者が掲載されているページを開いた。

結果は――。

第4回「どういうこと?」につづく)

■新人賞応募者向け~今回のポイント
・著名な指南書等は読んでおいても良いでしょう
・最初にどの賞に応募するか決めて、締切を設定した方が良いでしょう
・募集要項はしっかり読みましょう
・応募したらすぐに次の作品に取りかかりましょう

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。